タンパク質と余分な糖が結びつく現象を「糖化」と呼びます。
血液中の余分な糖が体内のタンパク質や脂質と結合すると、老化促進物質であるAGEs(終末糖化産物:Advanced Glycation End-products)が生成・蓄積されます。酸化が「体のサビ」と呼ばれるのに対し、糖化は「体のコゲ」と称され、近年は肌の美容トラブルだけでなく、全身の生活習慣病やフレイル(加齢による心身の衰え)の根本要因として研究が進んでいます。
しかし、「体のコゲ」という言葉が広まったことで、次のような誤解も増えています。
- 「トーストの焼き目や焼き魚の焦げは体に悪いの?」
- 「加熱調理した香ばしい料理は避けるべき?」
今回は、混同されがちな「食品の糖化」と「体内の糖化」の違いを整理し、私たちが本当に気をつけるべき健康リスクについて解説します。
糖化には「外因性」と「内因性」の2種類がある
糖化は、発生する場所によって大きく2つに分類されます。
- 外因性(がいいんせい)の糖化:調理や加工など「体の外(食品)」で起こる糖化
- 内因性(ないいんせい)の糖化:高血糖などにより「体の中」で起こる糖化
どちらも「糖とタンパク質が結びついて変性する」という化学反応の仕組みは同じですが、健康維持において直接大きなリスクとなるのは「内因性(体内の糖化)」です。
糖化研究のルーツは「おいしい料理の化学(メイラード反応)」
糖化の研究は医学ではなく、食品化学からスタートしました。
- 1912年の発見
フランスの化学者ルイ・カミーユ・メイラードが、糖とアミノ酸(タンパク質の構成要素)を加熱すると褐色に変化し、香ばしい香りが生まれる現象(メイラード反応)を発見しました。[1]
- 1970年代:医学への応用
「この反応が体温(約37℃)の体内でもゆっくり進行しているのではないか」という着眼点から医学研究が加速。糖尿病検査の指標である「HbA1c(糖化ヘモグロビン)」も、赤血球中のヘモグロビンが体内で糖化したものです。[2]
- 近年の解明
体内で生成された糖化物質が時間をかけて不可逆的な「AGEs」へ変化し、組織の硬化や慢性炎症を引き起こすことが明らかになりました。
料理の「おいしい焼き色」のメカニズムが、巡り巡って「老化や疾患の引き金」として注目されるようになったのです。
「食品の焦げ」と「体内の糖化」の決定的な違い
「体のコゲ」と聞くと、「焼き肉の焦げを食べると体内に溜まるのでは?」と不安になるかもしれません。しかし、日常的な食事の焼き目を過度に恐れる必要はありません。
① 食品由来のAGEs(外因性)の体内挙動
食品に含まれるAGEsの多くは消化管で分解されます。吸収されるのは摂取量の約10%程度とされ、その大半も尿中へ排泄されます。過度な偏食がない限り、食事の焼き色が直接体内に蓄積し続けるわけではありません。[3]
② かつての「焦げ=発がん性」説との混同
「魚や肉の焦げは体に悪い」とされるのは、タンパク質が高熱で完全に炭化した際に生じる「ヘテロサイクリックアミン」などの変異原物質を指しています。日常的な調理でつく適度な焦げや焼き目を食べる程度であれば、健康リスクが跳ね上がる心配は少ないとされています。
重要ポイント
本当に警戒すべきなのは、口から入る焦げよりも「体内で新しく作られるコゲ(内因性AGEs)」です。
なぜ体内で糖化(内因性AGEs)が起こるのか?
私たちの血液中には、エネルギー源としてブドウ糖(グルコース)が存在します。食後の急激な血糖値上昇(食後高血糖)や慢性的な高血糖状態が続くと、消費されなかった余分な糖が体内のタンパク質と結合します。
- 初期段階:余分な糖が血管や皮膚などのタンパク質と結合する(可逆的)
- 中間段階:体温(約37℃)環境下で、数週間〜数か月かけて徐々に変性する
- 終末段階:元の状態に戻らない老化物質「AGEs」となり、組織に沈着する(不可逆的)
特に、代謝回転(ターンオーバー)が遅い組織(血管、骨、目の水晶体、肌の真皮コラーゲンなど)にAGEsが蓄積すると、長期間排出されず機能低下を招きます。
内因性AGEsが引き起こす主な病気・不調
体内にAGEsが蓄積すると、タンパク質が変性して柔軟性を失うだけでなく、細胞表面の受容体(RAGE)と結合して活性酸素を発生させ、全身に慢性炎症を引き起こします。[4]
- 動脈硬化・高血圧
血管壁のコラーゲンが糖化・硬化し、弾力性を失うことで血圧上昇や血管狭窄を招きます。[5]
- 骨質の低下(骨粗鬆症)
骨の約半分を占めるコラーゲン繊維に異常な架橋(悪玉架橋)が形成され、骨密度があっても折れやすい骨になります。[6]
- 糖尿病合併症
微小血管が密集する網膜・腎臓・末梢神経が障害を受けます(失明、人工透析、神経障害のリスク)。[7]
- 白内障
目の水晶体を構成するクリスタリン(タンパク質)が糖化し、白く濁って視力が低下します。[8]
- 認知機能低下のリスク
脳血管障害の誘発や、異常タンパク質(アミロイドβなど)の蓄積・排泄遅延に関与します。[9]
- 肌の弾力低下・黄ぐすみ
真皮のコラーゲン・エラスチンが硬化してシワやたるみを引き起こし、褐色化したAGEs自体が肌の透明感を損ないます。[10]
まとめ
食事の香ばしい風味を極端に避ける必要はありません。健康を守る上で真に対策すべきなのは、「血糖値を急上昇させない食習慣(ベジファースト、低GI食品の選択)」「食後の適度な運動」「十分な睡眠」を通じて、体内で余分なAGEsを作らせない環境を整えることです。
参考文献
[1]. Maillard, L. C. Action des acides amines sur les sucres; formation des melanoidines par voie méthodique. Compte-Rendu de l’Académie des Sciences, 1912;154, 66-68.
[2]. Bunn HF, et al. The biosynthesis of human hemoglobin A1c. Slow glycosylation of hemoglobin in vivo. J Clin Invest. 1976;57(6):1652-1659.
[3]. Koschinsky T, et al. Orally absorbed reactive glycation products (glycotoxins): An environmental risk factor in diabetic nephropathy. PNAS, 1997;94(12), 6474–6479.
[4]. Bierhaus A, et al. Understanding RAGE, the receptor for advanced glycation end products. Journal of Molecular Medicine, 2005;83(11), 876–886.

[5]. Goh SY, et al. Clinical review: The role of advanced glycation end products in progression and complications of diabetes. J Clin Endocrinol Metab. 2008;93(4):1143-1152.
https://doi.org/10.1210/jc.2007-1817
[6]. Saito M, et al. Collagen cross-links as a determinant of bone quality: a possible explanation for bone fragility in aging, osteoporosis, and diabetes mellitus. Osteoporos Int. 2010;21(2):195-214.

[7]. Fowler MJ. Microvascular and Macrovascular Complications of Diabetes. Clinical Diabetes. 2008;26(2):77-82.
[8]. Sharma KK, et al. Lens aging: effects of crystallins. Biochim Biophys Acta. 2009;1790(10):1095–1108.
[9]. Srikanth V, et al. Advanced glycation endproducts and their receptor RAGE in Alzheimer’s disease. Neurobiol Aging. 2011;32(5):763–777.
[10]. Gkogkolou P, et al. Advanced glycation end products: Key players in skin aging? Dermatoendocrinol. 2012;4(3):259–270.

