アカシア豆知識と健康科学

現代ポリフェノール科学の原点:世界を揺るがした「フレンチパラドックス」

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監修:小川 壮介(アカシア研究会 事務局長 兼 研究員)

ポリフェノール研究のパラダイムシフト

お茶やチョコレートのパッケージにも表記され、広く知られている「ポリフェノール」は、機能性食品成分の代表格でもあります。ポリフェノールは抗酸化作用をはじめ、多彩な生理活性を持つことで知られていますが、医学や栄養学の分野でこれほどまでに研究されるようになった歴史は、実はそれほど古いものではありません。Pubmedで「polyphenol」として検索してみると2000年くらいから論文の数が急上昇していることがわかります。

かつてポリフェノールは、植物中に存在する単なる「渋み」や「苦み」、あるいは食品加工過程における「着色・沈殿の原因物質」といった、いわば非栄養素(ノン・ニュートリメント)として扱われており、その健康機能に光が当たることはほとんどありませんでした。そんなポリフェノールに対する評価を180度覆し、機能性研究の爆発的なパラダイムシフトを引き起こした契機こそが「フレンチパラドックス」の解明だったのです。

疫学統計が突きつけた「フレンチパラドックス」という逆説

ポリフェノール研究が本格的になるきっかけとなったのは、1980年代後半から1990年代初頭にかけて発表された、世界保健機関(WHO)などの国際共同疫学研究(MONICA計画など)のデータでした[1]。当時、「飽和脂肪酸(動物性脂肪)の摂取量が増加するほど、血中コレステロール値が上昇し、結果として虚血性心疾患(心筋梗塞など)による死亡率が直線的に高くなる」というのが、循環器医学における定説でした。

実際に、イギリス、ドイツ、北欧諸国など、肉類や乳製品、バターを多く摂取する西欧諸国のデータは、この仮説を見事なまでに証明していました。飽和脂肪酸の摂取量と心血管疾患による死亡率は、極めて強い正の相関関係を示していたのです。ところが、この統計グラフの中で、どうしても既存の疫学モデルでは説明のつかない「外れ値」を示す国が存在しました。それはフランスでした[2]。

フランス人は、伝統的な食習慣において、他国に劣らない量の肉料理、バター、濃厚なチーズなどの動物性脂肪(飽和脂肪酸)を日常的に摂取しています。統計上、一人当たりの脂肪摂取量は他の西欧諸国と同等、あるいはそれ以上であったにもかかわらず、フランス人における虚血性心疾患の死亡率は、イギリスやドイツなどと比較して3分の1から4分の1という、圧倒的な低さを示したのです。

「飽和脂肪酸を高頻度で摂取しているにもかかわらず、なぜ冠動脈疾患の発症率がこれほどまでに低いのか」 当時の栄養学の常識を根底から揺るがすこの矛盾は、医学界で「フレンチパラドックス(フランスの逆説)」と名付けられ、20世紀後半における最大の疫学的ミステリーとして、世界中の研究者たちの注目を集めることとなりました。

生化学的アプローチ:脂質過酸化と動脈硬化の真のメカニズム

この謎を解き明かす鍵としてクローズアップされたのが、フランス人が日常的に消費していた「赤ワイン」でした。しかし、真に赤ワインが心血管保護作用をもたらしているのか、そして仮にそうであるならば、どのようなメカニズムによってその効果が発揮されているのか、という因果関係を、生化学的に立証する必要がありました。

それまでの医学では、血中の「悪玉(LDL)コレステロール」の値が高いことそのものが動脈硬化の原因であると考えられていました。しかし研究が進むにつれて、単にLDLが血液中に存在するだけでは、血管内皮細胞を傷つける直接的な原因にはならないことが分かってきたのです。真の問題は、体内で生成される「活性酸素(フリーラジカル)」による、脂質の過酸化にあったのでした[3]。

私たちの生体内では、呼吸に伴う代謝プロセスや、ストレス、紫外線などの外的要因によって、高い酸化力を持つ活性酸素が常に生成されています。血液中を循環する正常なLDLが、この活性酸素によって酸化され、「酸化LDL(Oxidized LDL)」へと変化するのです。この変化した酸化LDLこそが、動脈硬化の真の引き金だったのです。

悪玉(LDL)コレステロールは、体内の活性酸素と結びつくことで「酸化LDL」へと変わります。血管の壁に入り込んだ酸化LDLを、免疫細胞(マクロファージ)が異物として過剰に取り込み、やがて死滅してドロドロの塊(アテローマ)を形成します。これが血管を狭め、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす動脈硬化の真の原因です。

したがって、心血管疾患を予防するための本質的なアプローチは、単に脂質の摂取を抑えることだけでなく、血中における「LDLの酸化プロセス」をいかにして阻害・抑制できるか、という点が重要になってきます。

活性酸素を消去するポリフェノール

赤ワインには、ブドウの果皮や果肉、果梗、種子に由来する多種多様なポリフェノール(アントシアニン、レスベラトロール、カテキン、プロアントシアニジンなど)が、醸造の過程で高濃度に抽出・濃縮されています。

世界各国の研究機関で行われた体外(in vitro)および生体内(in vivo)の実験により、これらのワインポリフェノールが極めて高い「活性酸素消去能(ラジカルスカベンジャー活性)」を有していることが実証されました[4][5][6]。ポリフェノールが持つフェノール性水酸基が、活性酸素へ速やかに電子(または水素原子)を供与することで、活性酸素を無害化し、LDLの過酸化反応を初期段階でブロックしていたのです。

フランス人は、動物性脂肪の摂取と同時に赤ワインから豊富なポリフェノールを食すことで、血中の酸化LDLの生成を抑制し、動脈硬化の進行を未然に防いでいたのです。これこそが、フレンチパラドックスの生化学的なメカニズムの一端でした。

1992年、この知見が著名な医学雑誌『Lancet(ランセット)』をはじめとする世界のトップジャーナルで相次いで発表される[2][4]と、それまで評価されてこなかった植物二次代謝産物の研究が注目され、とりわけポリフェノールの抗酸化機能に対する研究は、世界中で行われることとなりました。

植物の生存戦略から、次なる可能性「アカシア」へ

赤ワイン(ブドウ)に始まったポリフェノール研究は、その後、緑茶のカテキン、カカオのフラバノール、コーヒーのクロロゲン酸など、地球上に存在するあらゆる植物の二次代謝産物へと対象を広げていきました。

科学的な分析が進むにつれ、ポリフェノールは、地球上のほぼすべての植物が過酷な環境を生き抜くために自ら合成する「生体防御物質」であることが明らかになってきました。自ら移動することのできない植物は、強烈な紫外線による酸化ストレス、乾燥、害虫や病原菌といった外敵から身を守るために、極めて精緻な化学防御システムとして多種多様なフェノール化合物を進化させてきたのです。

植物が産生するポリフェノールは、現在分かっているだけでも数千種類に及ぶと言われています。当然ながら、その植物が置かれている自然環境の過酷さに比例して、体内に合成・蓄積されるポリフェノールの化学構造や含有量、あるいはヒトの生体に対する機能性も大きく異なります。

私たちが研究対象としている「アカシア」の樹皮から抽出されるポリフェノール(アカシアポリフェノール)もまた、この広大な植物界の生存戦略と、人類のスクリーニング研究の歴史が交差する中で見出された、極めて独自性の高い機能性成分の一つです。

参考文献

[1] Tunstall-Pedoe H, et al. Circulation. 1994;90(1):583-612.

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[2] Renaud S, de Lorgeril M. Lancet. 1992;339(8808):1523-1526.

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[3] Leopold JA, et al. Drug Discov Today Ther Strateg. 2008;5(1):5-13.

Oxidative mechanisms and atherothrombotic cardiovascular disease – PMC
Oxidant stress has been implicated in the etiology and pathogenesis of atherothrombotic vascular disease. Elevated levels of reactive oxygen species, resulting from increased produ…

[4] Frankel EN, et al. Lancet. 1993;341(8843):454-457.

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[5] Sánchez-Moreno C, et al. Food Res Int. 1999;32(6):407-412.

ScienceDirect

[6] Serafini M, Maiani G, et al. J Nutr. 1998;128(6):1003-1007.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

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