40代を過ぎると、かつてのような体力の維持が難しくなり、階段の上り下りや長時間の歩行で疲労を感じやすくなることが増えてきます。加齢に伴う筋力や運動機能の低下は自然な現象ですが、その根底には細胞内のエネルギー産生を担う「ミトコンドリア」の機能不全が深く関わっています。【1、2】
今回紹介する論文は国際学術誌『Cell Reports Medicine』に掲載した論文です。40〜64歳の中年層を対象に、ウロリチンAの長期摂取が筋肉や身体機能、細胞内のミトコンドリアにどのような影響を与えるかを検証した臨床試験です。【3】
加齢に伴う筋肉の衰えと「ミトコンドリア」の課題
「ミトコンドリア」は細胞内のエネルギー産生を担う細胞小器官ですが、古くなり健全でないミトコンドリアが蓄積すると、エネルギー(ATP)の産生効率が落ちてしまいます。さらに、細胞にストレスを与える活性酸素や炎症シグナルが増加します。この健全でない不要なミトコンドリアを選択的に分解・リサイクルする細胞の自浄作用を「マイトファジー(Mitophagy)」と呼びます。マイトファジーは運動などによっても活性化されますが、加齢に伴いその機能は衰えていきます。
これまで筋肉維持のための栄養戦略といえば、プロテインやアミノ酸による「筋肉の合成(同化)」が主流でした。しかし、細胞のエネルギー効率そのものを高めて筋肉の「質」を若返らせる新たなアプローチとして、いま世界的に熱い視線を集めているのが「ウロリチンA(Urolithin A)」です。
ウロリチンAとは? ――腸内細菌が作る「ポストバイオティクス」

ウロリチンAは、ザクロやベリー類、クルミなどに含まれるポリフェノール「エラジタンニン」を原料として、腸内細菌が代謝することで初めて生み出される「ポストバイオティクス(腸内細菌の代謝産物)」です。【4、5】
強力なマイトファジー誘導物質として基礎研究で注目されてきました【6】が、体内でエラジタンニンから十分なウロリチンAを自力で産生できる人は、腸内細菌叢の違いにより全体のわずか15%程度に過ぎないことが分かっています【4、5】。そのため、ウロリチンAそのものをサプリメントとして直接補給する有用性が研究されてきました。
試験デザイン:中年成人88名を対象とした4ヶ月間の二重盲検試験
本研究は、信頼性の高い「ランダム化二重盲検プラセボ対照試験」として実施されました。 【2】
- 対象者: 40〜64歳の成人88名(過体重で、日常的な運動習慣がなく持久力が低めの男女)
- 摂取期間: 4ヶ月間(120日間)
- グループ分け:
- プラセボ群(29名)
- ウロリチンA 500 mg/日 摂取群(29名)
- ウロリチンA 1,000 mg/日 摂取群(30名)
- 条件: 期間中、特別な運動トレーニングは追加せず、普段通りの生活を維持。
主な結果①:特別な運動なしで「脚の筋力」が約10〜12%向上
最も際立った結果は、下半身の筋力に対する改善効果でした。
プラセボ群では筋力の低下傾向が見られたのに対し、ウロリチンAを摂取したグループでは以下の顕著な向上が確認されました。
- ハムストリング(太もも裏)の平均ピークトルク:
- 500 mg群で約+12%、1,000 mg群で約+9.8%の有意な改善。
- 膝屈曲の最大トルク:
- 500 mg群で約+10.6%、1,000 mg群で約+10.5%の有意な改善。
特筆すべきは、DEXA(二重エネルギーX線吸収測定法)による体組成解析において、全身の除脂肪筋肉量や体脂肪率に変化がなかったという点です。これは、筋肉の「体積や重量(量)」が増えたのではなく、ミトコンドリアの活性化によって筋線維1本あたりの収縮力やエネルギー効率といった「筋肉の質」が高まったことを示唆しています。
主な結果②:歩行距離と有酸素持久力の改善
さらに高用量(1,000 mg/日)を摂取したグループでは、全身の運動パフォーマンスにも臨床的に意味のある変化が現れました。
- 6分間歩行テスト:
- 6分間で歩行できる距離が平均33.4メートル延長しました(ベースライン比 $p=0.008$)。医学的に「身体機能が意味のある改善を遂げた」とされる基準(30メートル以上)をクリアしています。
- 最高酸素摂取量:
- 有酸素運動の指標が約10.2%有意に向上しました。この改善幅は、同期間の運動トレーニングを行った場合に匹敵するレベルです。
- 自転車エルゴメーターでの総走行距離:
- 走行距離が+15%増加し、疲労に至るまでの時間も延長しました。
メカニズムの解明:筋生検で確認された「マイトファジー」の活性化
本研究の科学的価値を決定づけたのは、参加者の太ももの筋肉(外側広筋)から組織を採取する「筋生検(バイオプシー)」を行い、分子レベルでのメカニズムをヒトの生体内で直接突き止めた点にあります。
- マイトファジー経路のスイッチがオンに:
- 不良ミトコンドリアを識別して分解へと導く「PINK1/Parkin経路」の重要タンパク質(リン酸化ParkinやUBE2N)が増加していることが確認されました。
- エネルギー産生装置の増強:
- ミトコンドリア内でATPを作り出す呼吸鎖複合体(Complex I, II, III)のタンパク質が用量依存的に増加し、ミトコンドリアDNA量も増加傾向を示しました。

つまり、「古いミトコンドリアを分解・リサイクルし、健全で高効率なミトコンドリアを新たに整える」というサイクルが、実際にヒトの筋肉内で活性化されていたのです。
全身への波及効果:代謝効率の向上と慢性炎症(インフラメイジング)の抑制
血液検査の結果からも、全身の代謝と免疫に対するポジティブな効果が裏付けられました。
- 脂肪酸酸化の向上(アシルカルニチンの低下):
- 血中のアシルカルニチン濃度が低下しました。これは、ミトコンドリアにおける脂肪の燃焼効率が高まり、代謝の滞りが解消されたことを意味します。
- 抗炎症効果:
- 加齢性疾患や心血管リスクと関連する慢性炎症マーカー「CRP(C反応性タンパク)」が、1,000 mg群で有意に低下しました。また、TNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカインも低下傾向を示しました。
不良なミトコンドリアが分解されることで細胞傷害性のある活性酸素の放出が抑えられ、加齢に伴う慢性炎症(インフラメイジング)の緩和につながったと考えられています。

まとめと今後の展望
本試験(Singh et al., 2022)が示した最大のメッセージは、「特別な運動を上乗せしなくても、ミトコンドリアの自浄作用(マイトファジー)を活性化させることで、筋肉の質と運動機能を向上させられる可能性がある」という点です。さらに、4ヶ月間の継続摂取における安全性・忍容性の高さも確認されています。
加齢による筋力低下や将来の要介護(フレイル・サルコペニア)を防ぐためには、日々の運動習慣と適切な食事が基本であることに変わりはありません。しかし、多忙や関節の痛みなどでハードな運動を継続することが難しい現代人にとって、細胞内のミトコンドリアを内側からメンテナンスする「ウロリチンA」という新たな選択肢は、健康寿命を延ばすための有望なブレークスルーとして今後さらに注目を集めることになりそうです。
参考文献
[1]. Santanasto AJ, et al. The relationship between mitochondrial function and walking performance in older adults with a wide range of physical function. Exp Gerontol. 2016;81:1–7.
[2]. Migliavacca E, et al. Mitochondrial oxidative capacity and NAD+ biosynthesis are reduced in human sarcopenia across ethnicities. Nat Commun. 2019;10:5808.
[3]. Singh A, et al. Urolithin A improves muscle strength, exercise performance, and biomarkers of mitochondrial health in a randomized trial in middle-aged adults. Cell Rep Med. 2022;3(5):100633.
[4]. Tomás-Barberán FA, et al. Urolithins, the rescue of “old” metabolites to understand a “new” concept: Metabotypes as a nexus among phenolic metabolism, microbiota dysbiosis, and host health status. Mol Nutr Food Res. 2017;61(1):1500901.
[5]. Espín JC, Larrosa M, García-Conesa MT, Tomás-Barberán FA. Biological significance of urolithins, the gut microbial ellagic acid-derived metabolites: the evidence so far. Evid Based Complement Alternat Med. 2013;2013:270418.
[6]. Ryu D, et al. Urolithin A induces mitophagy and prolongs lifespan in C. elegans and increases muscle function in rodents. Nat Med. 2016;22(8):879–888.


